「道化の涙に映る虹」第14話
前話
貴男が事務所からフロントに戻ろうとした時、奈緒美が小走りで近づき
「ねぇ知ってる?」
小声で聞いてきた。
「何が?」
貴男が尋ねると、奈緒美が耳打ちし
「沙織のこと聞いた?」
「商品コードの登録ミスの件でしょ?知ってるよ」
「そうじゃなくて、その先」
「どういうこと?」
「沙織辞めるんだって」
「えーっ、クビということ?」
「違うよ。知らなかったんだね。自分から退職願出したんだよ」
「…」
酸素不足で脳の血流が悪くなった様な感覚に襲われた。
彼女は何で教えてくれなかったのか、貴男の頭の中でリフレインしていたが
「たぶん、慰留されると思って貴男さんに伝えなかったんだね」
奈緒美が疑問を解消してくれた。
「そうかなぁ」
「うん。きっとそうだよ。彼女の性格だと…」
「そうか…」
いつしか出勤の高揚感の源となっていた沙織の笑顔、それがプライベートでも見れないような気がし、急に寂しくなった。
職場で何回か沙織に話し掛けようとしたが、タイミングが合わなかった。
「僕に話す義理は無いけど教えて欲しかったよ」
貴男はトイレの中からメール送信した。
貴男は、車での帰途、胸ポケットのバイブでメール着信を知り、広めの路肩に車を停車し、急いでスマホを取り出した。
「こんばんは 営業部から移動になった時から、辞めるきっかけが欲しかったような気がします。今回の件は丁度良かった(笑)」
「でも本当にそれで良いの?」
「うん。スッキリしました」
「そうか、残念だけどしょうがないね。本音を言うと寂しいよ」
「会えないわけじゃないから」
「そうだよね。いこうねシーカヤック」
「はい(^-^)」
第15話につづく
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