海辺のアップサイクリスト

価値観の見直しによって生活を好循環させること

Serial novel

「道化の涙に映る虹」第14話

前話 upcyclist.hatenablog.com 貴男が事務所からフロントに戻ろうとした時、奈緒美が小走りで近づき 「ねぇ知ってる?」 小声で聞いてきた。 「何が?」 貴男が尋ねると、奈緒美が耳打ちし「沙織のこと聞いた?」 「商品コードの登録ミスの件でしょ?知って…

「道化の涙に映る虹」第13話

前話 upcyclist.hatenablog.com 勤務を終えて自宅に着いた貴男は内ポケットからスマホを取り出す。 着信は無かった。 ジャケットを椅子の方に投げ、冷蔵庫の上にスマホを置き、中から500mℓの缶ビールを取り出した。 プルトップを開けて一口飲むと 「こんばん…

「道化の涙に映る虹」第12話

前話 upcyclist.hatenablog.com 10万単位で金額が違っていた。明らかに単なるレジの打ち間違いではなかった。レジは古い機種で、仕入れ管理の社内LANと切り離され連動しておらず全てが手入力だった。 沙織は、事の次第を求められ、微かにカビの臭う日当たり…

「道化の涙に映る虹」第11話

前話 upcyclist.hatenablog.com 「じゃあ調整は後でね」 次の約束を取り付けた貴男は、グラスに残ったボルドーのメルロを一気に飲み干すと 「確か予定だと明日バス10台入っていたよね。朝早いからそろそろ帰ろうか?」 バスの話など無粋だと思ったが、戦場…

「道化の涙に映る虹」第10話

前話 upcyclist.hatenablog.com 男と女など、所詮寂しい動物で、シチュエーションさえ整えばどうにでもなる生き物。 互いに望む形をリアルタイムで探っている。 男は失敗を恐れ、女はリカバリーを冷静に、いや、ムードで見ている。 ラ・メルの窓辺にある筈の…

「道化の涙に映る虹」第9話

前話 upcyclist.hatenablog.com 沙織の車を先に帰した貴男は、中古のトールワゴンに沙織を乗せ、ラ・メルに向かった。 ラ・メルに着いた頃、貴男が事前に思い描いていた海に映えるオレンジ色の夕暮れは無残にも呆気なく閉じていた。 ここまでくれば、沙織の…

「道化の涙に映る虹」第8話

前話 upcyclist.hatenablog.com 「沙織は幻滅しているに違いない」 何とかフルラウンドが終わった貴男。 想定外の出来事に翻弄されて内心穏やかではなかったが、そこは経験が浅い青年ではない。頭の中ではリカバリーを考えていた。 貴男は、会社が倒産しても…

「道化の涙に映る虹」第7話

前話 upcyclist.hatenablog.com 貴男は、左手に嵌めたグローブの裾を手首側に強く引っ張り、グー、パーを繰り返しながら手にフィットさせた。 カートに積んであるゴルフバッグからドライバーを引き抜き、ティグラウンドに立って素振りを一度、そして、グリー…

「道化の涙に映る虹」第6話

前話 upcyclist.hatenablog.com 疲れた体を引き摺り家に帰ると、それに呼応するかのように、スマホに青い光が点滅し着信メールを知らせた。 沙織はメールが苦手、ましてやLINEなど誰ともやらないと奈緒美は言っていた。 LINEの着信を知らせる緑の点滅ではな…

「道化の涙に映る虹」第5話

前話 upcyclist.hatenablog.com 仕事上、作り笑顔は絶やさない貴男。だが、真の笑顔は失ったままだった。 その浅黒かったかつての笑顔 幼い娘はアンパンだと言って喜び、別れた妻は子熊のようだとからかった。 思い出の詰まった東京の家から身を剥がすように…

「道化の涙に映る虹」第4話

前話 upcyclist.hatenablog.com 貴男は帰宅すると「よろしくお願いします」と印刷された沙織の名刺を裏返し、記載されたアドレスに「ありがとう(^o^)/」を送信した。 その日の返信は無く、三日後の夜に「どういたしまして」とだけ返信があった。 沙織の降格…

「道化の涙に映る虹」第3話

前話 upcyclist.hatenablog.com 食事会で世間話のネタは尽きてしまった。駅まで15分の帰り道、貴男は沙織に何を話せば良いか思案に暮れていた。 「あのー、できたらメールアドレス教えて欲しんだけど」唐突過ぎたが他に言うべき言葉は浮かばなかった。 「…

「道化の涙に映る虹」第2話

「道化の涙に映る虹」第2話

連載小説「道化の涙に映る虹」 - Tragic love - 第1話

事業に失敗し、都会から逃げる様にして辿り着いた綺麗な海沿いの町。そんな町で再生してゆく一人の男の物語。

「道化の涙に映る虹」第36話

前話 upcyclist.hatenablog.com カーテンを超えて貴男の薄目に容赦なく差し込む日差し。そして、鮮やかなブルー。 否応が無くポートレートを撮って来いと言わんばかりの快晴だった。 昼まで寝たいという誘惑を断ち切り、貴男は布団を跳ね除け飛び起きた。 仕…

「道化の涙に映る虹」第35話

前話 upcyclist.hatenablog.com 「ゴメン。アンナ、いろいろあって疑り深くなっているんだ。赦してほしい。お金は無いけど友達でいてくれたら嬉しい」 半日ぐらい時間が経過したころにアンナから返信があった。 「タカは日本人なのにお金無いの?まあいっか…

「道化の涙に映る虹」第34話

前話 upcyclist.hatenablog.com 仕事中に容赦なく睡魔が襲う。 貴男は、中抜けの時間に一時間程仮眠を取り、目覚ましのエスプレッソを飲みながらスマホをタップしてLINEを開いた。 真っ赤なバラの様なチュチュを身に纏ったアンナ、そのトップ画像をタップし…

「道化の涙に映る虹」第33話

前話 upcyclist.hatenablog.com 寝ようとしても目が冴える。 夜中を三時過ぎた辺りからウトウトし、やっと眠りについた。 「パパ、今までありがとう。さようなら」 成人式の晴れ着を纏った美月は、貴男に背を向け歩き出した。 「美月、待ってくれ。本当に悪…

「道化の涙に映る虹」第32話

前話 upcyclist.hatenablog.com どこまで芝居を続けるつもりなのだろうか。 いずれ会いたいだの、金をくれだの言ってくるだろう。 貴男は暇潰しと空しさの間で返信を続けた。 勤務を終え、ジャケットの内ポケットからスマホを取り出すとLINEの着信を知らせる…

「道化の涙に映る虹」第31話

前話 upcyclist.hatenablog.com ミラ・ジョヴォヴィッチばりの美人。 いくらウクライナに美人が多くても、この写真はやり過ぎだ。 貴男のテンションは下がり、自分からLINEする気も起きなくなっていた。 翌日の朝、貴男は身支度を整えながら、充電器に挿した…

「道化の涙に映る虹」第30話

前話 upcyclist.hatenablog.com やはり詐欺業者か…。 当初から、日本人の成りすましか、六本木辺りで働いているウクライナ人の可能性も排除していなかった貴男は、モデルの様なアンナの添付画像見た瞬間、確信へと変わっていた。 最初から出来過ぎた話しだっ…

「道化の涙に映る虹」第29話

前話 upcyclist.hatenablog.com To bittukuri こんにちは ビックリさん ペンネームは驚く方のビックリだったんですね。笑いましたよ。 何にビックリしたのですか? キエフに遊びに行く時は、是非案内をお願いします。 僕が今住んでいるのは、静岡でも東の伊…

「道化の涙に映る虹」第28話

前話 upcyclist.hatenablog.com あくる日の夜にメールの返信があった。 From bittukuri こんにちは(^^)こちらこそ、よろしくお願いします。返事、心からありがとう^^スゴイ嬉しかったです。私は30歳の女性で、キエフに住んでいます。 私の日本語を褒めて…

「道化の涙に映る虹」第27話

前話 upcyclist.hatenablog.com 貴男はペンパルサイトにユーザー登録した。 サイトの趣旨は、あくまで幅広い文通相手を探すというのを目的としたもので、露骨に交際を求めることを禁止すると表示されていたが、交際することが本来の目的ではない貴男にとって…

「道化の涙に映る虹」第26話

前話 upcyclist.hatenablog.com ディスプレイの消えたスマホを握ったまま茫然自失となった貴男。 暫くすると、心は惨めな気持ちで大量出血を起していた。 応急処置が必要だったが、夜中の救急病院は24時間営業のスーパーしか無かった。 トールワゴンは救急車…

「道化の涙に映る虹」第25話

前話upcyclist.hatenablog.com 深々としたお辞儀に、沙織の心境の変化を感じ取った貴男だった。 空白の二年。沙織に何があったのか? 寝付けずにいた貴男は、天井を見つめ当ての無い自問を繰り返していた。 決着をつけるため、沙織に確かめようとも思ったが…

「道化の涙に映る虹」第24話

前話 upcyclist.hatenablog.com あれから二年。 狭い町ゆえ、知り合いの車に遭遇することはちょくちょくあったが、沙織の車と遭遇するのは初めてであった。 二年も出会うことが無かった事実に、何故だと思う反面、素直に運命と信じても良いと貴男は思った。 …

「道化の涙に映る虹」第23話

前話 upcyclist.hatenablog.com 二日程して沙織からメールが入っていた。 「こんばんは この間はごめんなさいm(_ _)m 医療事務は初めてなので、覚えることがたくさんあってなかなか時間が取れませんでした。貴男さんに逢いたいけど、当分の間は、以前の様に…

「道化の涙に映る虹」第22話

前話upcyclist.hatenablog.com 沙織が退職した後、販売部長とパートが売店業務を行っていたが、三週間後には新入社員がレジに就いた。 沙織の姿が売店に無くても、プライベートで繋がった貴男には寂しさは無かった。 しばらくして、沙織に新しい勤め口が決ま…

「道化の涙に映る虹」第21話

前話upcyclist.hatenablog.com 日頃から眠りが浅い貴男は物音に敏感で、微かな寝息に目を醒ました。 そうだ、沙織は泊ったんだ。 昨日のことを反芻(はんすう)するが、断片的な記憶に不安だけが募る。 だが、スッピンの安心しきった寝顔を見ているうちに、…