海辺のアップサイクリスト

価値観の見直しによって生活を好循環させること

「道化の涙に映る虹」第15話

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沙織が有休消化に入る前日に、奈緒美、有里子、貴男の参加で、ささやかな送別会が開かれることになった。

 

「ここ行ったことある?」

 

PCのディスプレイを見ている貴男の視界に、奈緒美はキーボードの上にチラシを滑り込ませながら脇から入り込んできた。

 

 

「いや、無いな」
貴男はチラシを裏返し表に戻す。

 

 

チラシには、揺らぎを入れたダイナミックな筆文字で居酒屋海月と書いてあり、クラゲが浮遊する水槽の写真や、壁にたくさん飾られた海に浮かぶ月の写真、中央に簡単なお品書きが印刷されていた。

 

 

「前に沙織と何回か行ったことがあるんだ。結構良かったよ」

 奈緒美は言った。

 

「送別会やる店?」

 

 

「そう」

 

 

「確かに、送別会は新しい所行くよりも、慣れた所の方がいいね。ここで良いんじゃない?雰囲気も良さげだし」

 

 

「そう思って」

 

 

「幹事は?僕がやろうか?」

 

 

「いや私がやるから大丈夫。ありがとう」

 

 

「じゃあ頼むね」

 

 

「了解」

 

 

 

貴男が居酒屋海月に着いた頃には既にみんな揃っていた。

 

 

 

クラゲが浮遊する水槽を横切り個室に入ると、沙織は微笑み、奈緒美は手招き、有里子は腰壁にもたれかかり沈んでいた。

 

 

程無く中生ジョッキが来ると

 

 

「さあ、沙織の前途を祝して乾杯といきますか、有里子さんもお通夜じゃないんだからね。パーッと飲もうよ」
奈緒美が、有里子に無理矢理グラスを持たせながら言った。

 

 

貴男は、有里子の様子が気になりながらも、沙織を見ていた。

 

 

「じゃあーいくよ~ん、クアンパイ~」
ムードメーカの奈緒美の変なイントネーションのお蔭で、吹き出しそうになりながら笑顔でジョッキをぶつけ合う。

 

 

思い出話に花が咲き、アルコールが進む

 

 

黙りこくっていた有里子は、飲むピッチが上がった頃に突然、
「私がヘマしなければ…」
堰を切ったように話始め
「ごめんね、本当にごめんね。わたしのせいで…」
有里子はハンカチで目を押さえながら泣きじゃくった。

 

 

「何言ってるの、本来私がやらなければいけない仕事。それをユリさんだけに押し付けた私の責任だよ。ユリさんは悪くない。それに、人事異動があった時点でいつ辞めようか考えていたの」沙織は向かいに座る有里子の手に自分の手を重ねて慰める。

 

 

何となく経緯が見えてきた貴男

 

 

「そうだよ。沙織ずっと言ってたもんね。だいたい、何で辞めたうつぼが営業部に戻って来るんだよ。おかしいよ」
おしぼりをテーブルに叩きつけながら感情を露にする奈緒美。

 

 

「うつぼ?」
貴男の問いに

 

 

「某高関女史」
有里子にタオルハンカチを渡しながら間髪入れずに答える奈緒

 

 

「名前言っちゃってるし」
貴男がツッコミを入れると

 

 

「社長の愛人だったりしてアハハ」
お参りの要領で柏手する奈緒美。

 

皆笑い出す。

 

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