「道化の涙に映る虹」第3話
前話
食事会で世間話のネタは尽きてしまった。
駅まで15分の帰り道、貴男は沙織に何を話せば良いか思案に暮れていた。
「あのー、できたらメールアドレス教えて欲しんだけど」
唐突過ぎたが他に言うべき言葉は浮かばなかった。
「私?」
上目遣いの沙織。
「うん」
「明日メモで持っていくからそれでいい?」
明日のメモにする理由を沙織は明かさず
「えっ? あぁいいけど」
貴男も追うことをしなかった。
翌日、沙織は客がいないところを見計らい、フロントの貴男の後方にある事務所の窓口から手招きした。
貴男は辺りを見回し、それとなく事務所に下がった。幸い、事務所には沙織と奈緒美しかいなかった。
ペン尻を咥えながらニヤつく奈緒美を後目に、沙織に近づいた。
「持ってきてくれたの?」
当たり前のように聞く貴男
「何の為に?」
意外な言葉で返す沙織
「えっ?いや昨日・・・」
状況が飲み込めず狼狽える貴男
「はい」
おもむろにポーチから自作の名刺を取り出す沙織。
淡いパステル調の花畑に車両進入禁止の標識がコラージュされ、メールアドレスと電話番号が印刷されたものだった。
「あっありがとう」
意表を突いたやり取りや図柄の意図が全く読めず、狐につままれた気分になった貴男だったが、いそいそと名刺をポケットにしまい込んだ。
売店に戻る沙織をバイバイで見送った奈緒美は、今度は貴男をシッシッと追い払った。
それに応えるように、後ろ姿で手を振る貴男はフロントに戻った。
第4話につづく
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