海辺のアップサイクリスト

価値観の見直しによって生活を好循環させること

「道化の涙に映る虹」第28話

前話 

upcyclist.hatenablog.com

 

 

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あくる日の夜にメールの返信があった。

 

From bittukuri

 

こんにちは(^^)こちらこそ、よろしくお願いします。
返事、心からありがとう^^スゴイ嬉しかったです。
私は30歳の女性で、キエフに住んでいます。

私の日本語を褒めてくれて、ありがとうございます。心から。

ある大学で日本語と英語を教えている教師です。

漢字の使い方あまり気にしないでください。何でも読めますから。実は、専門は日本語通訳なんです。大学で5年間ぐらい日本語を勉強したことがあって、それから日本でも国際交流金のプログラムも参加しました。日本語能力試験も受けたこともあった、1級です。よろしくお願いします^^

私の趣味は読書、旅行、ドラマ、音楽、デザイン、あと、ダンスも好きですです。音楽なら、まあ色々な音楽が好き、日本のロックは特に。
私のメールは✕✕_○○@▽▽.com
ラインIDは◇◇_bittukuri
では, ご返信お待ちしています(^^)

 

貴男は、相手との歳の差が気にはなったものの、日本語の丁寧な文面と顔文字に感動して間を空けずに返信した。

 

To bittukuri

 

こんにちは bittukuriさん
タカオ(takao )です。返事ありがとう。(^_^)

僕は静岡県の伊豆に住んでいます。

bittukuriさんの日本語が上手なので、まるで日本人にメールしているみたいです。

難しい漢字も使いこなしていますね。日本語の通訳と教師やっているなんて素晴らしい!

ウクライナの首都キーウに住んでいるのですね。長い歴史があるとても美しい都市です。

僕も音楽は好きです。日本のロックでは何が好きですか?

ところでペンネームのbittukuriはウクライナ語の名前ですか?読み方を教えてください。

これからもメールいっぱいしましょう。よろしくお願いします。

  

相手に通じるかわからなかったが、貴男は受けが良いようにと、都市名のキエフウクライナ語の発音に近い「キーウ」と打った。

 

二時間もしないうちに相手の女性から返信が届いた。

 

From bittukuri

 

タカオさん

こんばんは、返事ありがとうございます^^
とても嬉しったです。本当に^^

そうですね、キエフに住んでいます。もし良かったら、いつかぜひ遊びに来てください。観光地がいっぱいいますから。私は案内しますよ。喜んで。

デザインのことって、アクセサリーのデザインが好きで、前は、暇な時間があったとき、よくしました、けど、今は仕事ばかりなので、あまりするチャンスがありまっせん><でも、デザインだけでなく、10年間ぐらいバレリーナでした。それとも、ピアノを弾くことが好きです。まあ、気持ちがいっぱいで、小説も書くのが好きです。
ところで、日本へ何回か行ったことがあったのに、静岡へ行ったことがありませんでした。本当にとても見たいです。

あとbittukuriはウクライナ語ではないよ。日本語のビックリのローマ字表記(笑)
ラインとかあったら、もっと色々について話す可能性があったね^^

ところで、もし良かったら、写真交換しましょう^^
それじゃ、今度はここで。
返事を楽しみに

 

貴男からのメールが嬉しくて気が急いていたのか、会話がかみ合わず、脱字も多くなって少したどたどしくなっていた。

 

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「道化の涙に映る虹」第27話

 前話

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貴男はペンパルサイトにユーザー登録した。

 

 

サイトの趣旨は、あくまで幅広い文通相手を探すというのを目的としたもので、露骨に交際を求めることを禁止すると表示されていたが、交際することが本来の目的ではない貴男にとって障害にはならなかった。

 

 

そして、貴男は相手ユーザーが居住している国名と性別の絞り込み検索を行い、自己紹介文を掲載した。

 

 Nice to meet you. I live near the sea and I am an employee of the hotel. I am looking for a Ukrainian friend.Please become a Friend.

 (はじめまして。私は海の近くに住んでおり、私はホテルの従業員です。私はウクライナの友人を探しています。友達になってください。)

 

 

二日後に一通のメールを受信した。

 

 

From bittukuri

 

はじめまして takaoさん

前に日本で暮らしたことがあります。私で良ければ友達になりませんか?返事待ってます。

 

 

日本語の返信に驚いた貴男はメールのリンクにあるプロフィールをクリックした。

 

 

pen name bittukuri

residing  Ukraine 
member since  29 May 2003
sex Female
nationality  Ukraine
languages English, German, Japanese, Ukranian
job  Teacher
interests  Books, Dancing, Fashion, Music, Origami, Photographs, Soccer, Travel, Writing

 

 

確かに言語のところに日本語とあった。

 

 

何故か相手の年齢は表示されていなかった。貴男は、ユーザー登録の際、年齢を入力したことを思い出した。

 

 

貴男は、その日のうちに返信した。

 

 

To bittukuri

 

はじめまして bittukuriさん

タカオです。日本語上手ですね。驚きました。

できれば、このまま日本語でメールを続けたいのですが大丈夫ですか?

だめだったら英語でお願いします。
私は、とても綺麗な海の近くでホテルの従業員をしています。
趣味はたくさんあります。音楽、読書、写真はbittukuriさんと共通ですね。
桜の季節にはとても美しい場所があります。
友達になりたいのでよろしくお願いします。

↑ もし、わからない日本語、漢字があったら言ってください。

↑ Please tell me Japanese you do not know.


I want to continue to send e-mail in Japanese, but is it OK?
If it is not good, please do it in English.

(できれば、このまま日本語でメールを続けたいのですが大丈夫ですか?
だめだったら英語でお願いします。)

 

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「道化の涙に映る虹」第26話

前話

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ディスプレイの消えたスマホを握ったまま茫然自失となった貴男。

 

暫くすると、心は惨めな気持ちで大量出血を起していた。

 

応急処置が必要だったが、夜中の救急病院は24時間営業のスーパーしか無かった。

 

トールワゴンは救急車の如く近くのスーパーに着いた。

 

貴男は閑散とした店内を大股で歩き、一番好きなバーボンをカゴに入れた。陳列棚の中では一番値段が高く、滅多に買わないものだった。

 

そして、総菜の見切り品コーナーで、救いを求める様にまばらに残った揚げ物をカゴに投げ込むと脇目も振らずレジに直行し家路を急いだ。

 

グラスで飲み始めたバーボンは、いつしかボトルのラッパ飲みとなりあっという間に空になった。

 

冷蔵庫に常備していた紙パックの焼酎もあおり、いつの間にか眠っていた。

 

数時間程して、貴男は自分のくしゃみで目覚めた。

 

見慣れない景色に一瞬焦るが、それは錯覚で、自宅のリビングであることに気付く。

当然服も着替えてはいなかった。

 

この日は休日の為、貴男は酒臭い身体を朝からゆっくり湯船に沈めることができた。

 

浴室に射し込む朝日に蒸気の粒子が舞う。

 

貴男は、それを眺めながら、深い喪失感を忘れる方法を思案していた。

 

このショックから立ち直るには、反対側に針が振り切れるぐらい突拍子もない出来事が必要だと思った。

 

しかし、思いを巡らしてもそう簡単には出てこなかった。

 

ドライヤーで髪を乾かしながら何気なく足元を見る。視界に入ったのはゴミ箱からはみ出た一枚のチラシ。

 

東京オリンピックのオフィシャルスポンサーを知らせる企業のチラシであった。

 

オリンピック…。

 

今までとは真逆の世界。この際、外国人の彼女をつくるのも良いかもしれないと唐突に思った。

 

日本人から外国人、近距離恋愛から超遠距離恋愛

 

黙っていても、何かに翻弄されるであろう現実に、沙織を忘れることができるのではないかと期待した。

 

PCを開くと早速検索した。

 

露骨な国際結婚や出会い系、如何わしいサイトの登録は避け、ペンパルサイトの友達募集に登録した。わざとプロセスに時間が掛かる方を選んだのだ。

 

若い頃に海外主張や留学の経験もあり、フランス人、イタリア人、アメリカ人の女性とも付き合た経験があるので、外国人に全く抵抗が無かった。

 

男の浅はかな思考で、どうせ彼女にするなら世界一の美人が多くいる国と、ウクライナの女性にコンタクトを取ることにした。

 

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アップサイクルの原点

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皆さんは愛着があるモノとお別れする時、寂しくなったりしませんか?

 

私は寂しくなります。

 

長年世話になったモノは、生活の一部となり、身体の一部となり、思い出などもあるでしょう。

 

でも、やがて古くなって、壊れたり使わなくなったりする。

 

それをそのまま所持していると、極端な例としてゴミ屋敷になってしまう。

 

もし、省スペースの違う形として蘇り、身近に感じることができれば

 

それがアップサイクルの原点です。

「道化の涙に映る虹」第25話

前話
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深々としたお辞儀に、沙織の心境の変化を感じ取った貴男だった。

 

空白の二年。沙織に何があったのか?

寝付けずにいた貴男は、天井を見つめ当ての無い自問を繰り返していた。

 

決着をつけるため、沙織に確かめようとも思ったが、そうすることで二人の関係が終わってしまうことも危惧していた。

 

推敲を重ねた翌日の長文は

「何か僕に言い忘れたこと無い?」
と変化していた。

 

程無くして沙織からの返信
「電話で話したい。都合が良い時間教えてください」

 

 

その日の夜10時に、滅多に鳴らない音色の着信音が乾いたリビングに響く。
貴男はスマホをフリックして耳にあてる。

 

「こんばんは」

 

 

「こんばんは。実は大事なことを伝えたくて…、この間会った時に話そうと思ったけど…、なかなか言い出せなかった」
躊躇いがちに話す沙織。

 

「何かな」
今後の展開の覚悟を決める貴男の心拍数は上がる。

 

「実は一年ぐらい前に帰宅途中に交通事故に遭って」

 

「えっ!そうだったの?大丈夫なの?」

 

「うん。腕20針縫っちゃった。この辺、救急病院はうちだけだから、まさか自分が働いている所に入院するとはね」

 

「そうだったのか。知らなかった」

 

「それでね…」
突然沙織の声は上擦る。

 

「何?」

 

「うん…。あのね…形成外科の執刀医だった人、私の手術した…」

 

「うん」

 

「早くに奥様を亡くしていて、小さな男の子がいるの」

 

「それで」

 

「うん……。あの、単刀直入に言うけど、実は婚約したの」

 

貴男の嫌な予感は的中した。
結婚に失敗した負い目があり、略奪して幸せにするなどとロマンチックなことは言えない、貴男は黙って聞くしかなかった。
もっと早く連絡をとるべきだった。二年の空白を今更ながら悔やんだ。

 

「そうか。そうだったのか。おめでとう」
貴男は、ジェラシー、プライド、喪失感の微妙な葛藤と混乱の中で返事をした。

 

離婚の辛さを分かち合った似た者同士、沙織の幸せを祝福してやりたいという気持ちと醜態を晒すのは避けたいという気持ちの方が勝ったのだ。

 

「今度こそ僕の分まで幸せを掴んで欲しい」

とだけ伝えると

 

沙織は
「幸せになります。本当に今までありがとう。体に気をつけてください。さようなら」

 

「さよなら」
電話を切った貴男に喪失感の大波が一気に押し寄せた。

 

自分が悲しい思いをした分、他人は幸せになる。自分は幸せではないが他人の役には立っている。自分の心が浸食されても、これで一人の人間に新たな道を歩ませることができる。傍から見れば滑稽でも、そう思うことでバランスを取り、この波を乗り切ろうと思う貴男だった。

 
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「道化の涙に映る虹」第24話

前話


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あれから二年。

 

 

 

狭い町ゆえ、知り合いの車に遭遇することはちょくちょくあったが、沙織の車と遭遇するのは初めてであった。

 

二年も出会うことが無かった事実に、何故だと思う反面、素直に運命と信じても良いと貴男は思った。

 

貴男からの短文メールに対し、沙織の長文メール。

 

当ての無い期待に勇気づけられた貴男は、沙織に逢いたいと返信した。

 

すぐに沙織から返信があり、海岸沿いに遊歩道がある公園で四日後に逢うことになった。

 

シャンプーの香りを纏う沙織の黒髪は、ショートとなり洗練された色気があった。

 

服の趣味も変わったように感じた。

 

思い出話と近況を話すうちに日はとっぷりと暮れた。

 

貴男は、公園の近くの干物が美味しい定食屋に沙織を誘った。

 

沙織と別れた後は、誰も助手席には乗せていなかった。

 

以前の様に、ここは私の特等席と言わんばかりに、躊躇すること無く助手席に座る沙織に愛おしく貴男は感じた。

 

隣に座る沙織の温もりと、彼女に記憶を上書きされていなかったと感じる喜びに浸った貴男は、傍から見れば滑稽なほどの大袈裟な手振り身振りとなって沙織の前で存分に披露されていた。

 

沙織も貴男との再会を喜んでいた。

 

貴男が沙織に、飲みに行こうと誘うが、根が生えそうだからと断られた。

 

別れ際、貴男の車のバックミラーに映る小さな沙織は何故か深々とお辞儀をしていた。

 

貴男は違和感を覚えていた。

 
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「道化の涙に映る虹」第23話

前話


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二日程して沙織からメールが入っていた。

 

「こんばんは この間はごめんなさいm(_ _)m 医療事務は初めてなので、覚えることがたくさんあってなかなか時間が取れませんでした。貴男さんに逢いたいけど、当分の間は、以前の様に時間が作れないかもしれません。(T_T)こちらが落ち着くまで待ってもらえるとうれしいけど(*^^*)」

 

「そうか、大変そうだね。どんなことやってるの?」

 

「うん。受付とか会計の手伝い、あとレセプト業務の手伝い。カルテの整理や電話応対、予約管理、そして、掃除とか雑用」

 

「レセプトって?」

 

「診療報酬明細書のことです」

 

「点数でやるやつ?」

 

「そう。あと、まだ何もわかんないから患者のクレーム対応とかもしんどい…。先輩にもイジメられないように頑張らないとo(^o^)o」

 

「そうか、辛いことがあったらいつでも連絡するんだよ」

 

「うん(*^-^)」

 

 

それからは毎日、二人の間で一日数回のメールと電話のラリーが続いた。

 

 

貴男の方も、仕事の量が増え、重要な仕事も任されるようになっていた。

 

逢えないことが当たり前のようになっていた二人。当初は言い合いにもなっていたが

いつしか、季節の移ろいとともにメールの行間が空き始めていた。

 

沙織のことが気になっていた貴男だが、追いかけることが、事態を好転させるとは思えなく放置していた。

 

事務所でコピーをとっている貴男の背中を指で突かれた。

 

驚いて振り向くと真顔の奈緒美がいた。

 

「あのさ、最近、沙織から連絡無いんだよね。前は私からメールするとそれなりに返信があったけど、こっちからメールしても返ってこなくなったんだ。辞めたあとはしょっちゅう連絡し合っていたけど。やっぱり私、沙織に何か悪い事したのかな?貴男さんから言ってもらえない?」

 

「連絡するように?」

 

「うん」

 

「わかった。言っておくよ」

貴男は安請け合いをした。実は自分も連絡取り合っていないとは言い出せないでいた。

 

僕たちのことは過去のこととして忘れたいのだろうか?

 

貴男は、ますます沙織に連絡してはいけないのではないかと思うようになった。

 

時々沙織のことを思う日があり、深酒した時は連絡したいという衝動に駆られたが結局連絡できなかった。

 

二人は自然消滅の形に納まっていった。

 

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