「道化の涙に映る虹」第24話
前話
あれから二年。
狭い町ゆえ、知り合いの車に遭遇することはちょくちょくあったが、沙織の車と遭遇するのは初めてであった。
二年も出会うことが無かった事実に、何故だと思う反面、素直に運命と信じても良いと貴男は思った。
貴男からの短文メールに対し、沙織の長文メール。
当ての無い期待に勇気づけられた貴男は、沙織に逢いたいと返信した。
すぐに沙織から返信があり、海岸沿いに遊歩道がある公園で四日後に逢うことになった。
シャンプーの香りを纏う沙織の黒髪は、ショートとなり洗練された色気があった。
服の趣味も変わったように感じた。
思い出話と近況を話すうちに日はとっぷりと暮れた。
貴男は、公園の近くの干物が美味しい定食屋に沙織を誘った。
沙織と別れた後は、誰も助手席には乗せていなかった。
以前の様に、ここは私の特等席と言わんばかりに、躊躇すること無く助手席に座る沙織に愛おしく貴男は感じた。
隣に座る沙織の温もりと、彼女に記憶を上書きされていなかったと感じる喜びに浸った貴男は、傍から見れば滑稽なほどの大袈裟な手振り身振りとなって沙織の前で存分に披露されていた。
沙織も貴男との再会を喜んでいた。
貴男が沙織に、飲みに行こうと誘うが、根が生えそうだからと断られた。
別れ際、貴男の車のバックミラーに映る小さな沙織は何故か深々とお辞儀をしていた。
貴男は違和感を覚えていた。