「道化の涙に映る虹」第10話
前話
男と女など、所詮寂しい動物で、シチュエーションさえ整えばどうにでもなる生き物。
互いに望む形をリアルタイムで探っている。
男は失敗を恐れ、女はリカバリーを冷静に、いや、ムードで見ている。
ラ・メルの窓辺にある筈の絶景のかわりに、ガラスに反射する沙織の顔を意識しながら、沙織の話題に相槌を打ち、時にジョークをまぜながら、どうにかこうにか雰囲気を戻した。
内心、営業の仕事の様だと思っていたが今に始まったことではない。よくよく考えれば高校生の頃からやっていたこと、そう思った途端、貴男は吹き出した。
「何?どうしたの?」キョトンとした沙織。
「ゴメン。さっきの僕の間抜けなゴルフを思い出したんだ。アハハ。今度は僕の趣味に合わせてもらうよ。地元だから泳げるでしょう?海潜らない?」
「素潜り?ダイビング?」
「うん、スキューバ」
「ゴメン。やったことない。苦手」
「えっ、ホント?」
海の傍で生活していれば当然という気持ちで投げ掛けた質問に想定外な答え、次の質問に窮した貴男だが
「じゃあシーカヤックやろう」と畳み掛けた。
「シーカヤック?」
「うん、シーカヤック」
「何それ」
「知らない?カヌーみたいなので海に出るやつだよ」
「あーあれ」
「うん、そう。僕が漕ぐから」疲れる等、ネガティブな情報を与えないように配慮した。
「うん。いいですよ」
第11話につづく
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「道化の涙に映る虹」第9話
前話
沙織の車を先に帰した貴男は、中古のトールワゴンに沙織を乗せ、ラ・メルに向かった。
ラ・メルに着いた頃、貴男が事前に思い描いていた海に映えるオレンジ色の夕暮れは無残にも呆気なく閉じていた。
ここまでくれば、沙織の顔色を気にしていては先に進まないのは重々承知。百戦というより数々の敗戦で錬磨された貴男
「この夕暮れ、焦り過ぎだよね。せめて僕らが到着するまで待ってくれれば良いのに」
無意識のうちに口を衝いていた。
たとえ、ネガティブな現実があっても、できるだけポジティブな雰囲気を作るのみ。
それこそが女性が遺伝子情報に加えようとしているもの。
ゴルフが下手なのは既に沙織にインプットされている。
それがどうした、生きることに全く関係ない。
変な自信が身に付いている貴男は揺るがなかったが
「フフっ」
沙織が笑ったことで心底安心した。
「夕暮れが無くてもワインの美味しさは変らないよね。美味しい料理だってあるし」
「うん。はい。楽しみ」
ドアを開け下車した貴男は仰々しく助手席に回り込み、沙織を降ろした。
沙織は、いまだかつて見せたことがない笑顔を貴男に送った。
第10話につづく
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「道化の涙に映る虹」第8話
前話
「沙織は幻滅しているに違いない」
何とかフルラウンドが終わった貴男。
想定外の出来事に翻弄されて内心穏やかではなかったが、そこは経験が浅い青年ではない。頭の中ではリカバリーを考えていた。
貴男は、会社が倒産しても最後まで手放さなかったパテックフィリップの腕時計をおもむろに見る。
「そうだ、今ならちょうど間に合う。沙織さんは見慣れているかもしれないが、この時間なら夕映えの綺麗な海が見れるよね。その景色をつまみにとびきりの美味いワイン飲みませんか?」
貴男は、予約していた海が一望できるフレンチレストランを思い浮かべながら臆面もなく沙織を誘った。
ラ・メルと言うありふれた名の、一見カジュアルだが地元の人間が来ない高級店だった。
沙織はバッグからスマホを取り出し、フリックした。
断り文句が来る予感。
「んー。でも車で来てるから」
スマホから貴男に目を移す沙織
「僕が代行手配するので」
いろいろ不利な状況、食事だけでも等という言葉を飲み込んで畳み掛けることはしなかった。
「わかりました。行きましょう」
沙織の予想外の返事に拍子抜けした貴男だった。
第9話につづく
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「道化の涙に映る虹」第7話
前話
貴男は、左手に嵌めたグローブの裾を手首側に強く引っ張り、グー、パーを繰り返しながら手にフィットさせた。
カートに積んであるゴルフバッグからドライバーを引き抜き、ティグラウンドに立って素振りを一度、そして、グリーン上のピンフラッグと足元のゴルフボールを交互に見定めた。
カートから降りてきた沙織は温かい眼差しを貴男に送った。
良いところを見せようと飛距離を意識し力任せのフルスイング。
ゴルフボールは左に大きく流れ
「フォアー!」
聞いたことが無い沙織の大声に一瞬ビクッとする貴男。
その後のラウンドでも、池に、バンカーにとトラブルショットの連発でグダグダになり、パッティングなど殆ど練習していなかったことで、ダブルボギー、トリプルボギーは当り前の状態となっていた。
一方、飛距離こそ出ないものの、前職から営業畑一筋で接待ゴルフ経験豊富な沙織は常にフェアウェイをキープし手堅く刻んでいた。
こうなると最早楽しむどころではない。
貴男は沙織の「大丈夫、落ち着いて」「頑張って」の声にプレッシャーを感じ、その声援が少なくなったと感じた時から沙織の顔色を窺うようになっていた。
更に、貴男の背後に後発グループのプレッシャーも迫り、優雅にラウンドを回るイメージだったゴルフが一人間抜けに走り回ることになっていた。
失敗する度、コミカルなオーバーアクションで戯けていた貴男も、次第に余裕が無くなり真顔になっていた。
沙織のスコア89貴男は138。散々だった。
プライドのメッキもぽろぽろと剥がれ落ちていた。
自分の土俵に上げるべきだったと後悔した。
「やっぱり、やっていないとダメだね」
貴男は、経験が浅い体を装い、己への慰めを兼ねた苦し紛れの言い訳を沙織に放った。
第8話につづく
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「道化の涙に映る虹」第6話
前話
疲れた体を引き摺り家に帰ると、それに呼応するかのように、スマホに青い光が点滅し着信メールを知らせた。
沙織はメールが苦手、ましてやLINEなど誰ともやらないと奈緒美は言っていた。
LINEの着信を知らせる緑の点滅ではなかったので、貴男はほのかな期待を抱いていた。
スマホのディスプレイをフリックしダブルタップ、そして着信リスト最上部の沙織の名前をタップした。
「こんばんは♪ 元気ですか?今度お休みが同じ日にゴルフ行きませんか?」
貴男の眼はメールを三回なぞっていた。
だが、ゴルフ経験が無い貴男は素直に喜べなかった。
無様な姿を晒したくない。代案を出すべきか…。
しかし、先日の食事会でも、共通の趣味の話題は無かった。仮に自分の代案に合わせてもらっても、それはそれで面倒だと思い、沙織に合わせた方が無難だとも思った。
「是非行きましょう!」
経験が無いとはとても言い出せなかった。
日程調整には時間が掛かるし付け焼刃でも何とかなるだろう。元々運動音痴ではない貴男はたかを括り、友人に道具一式を貸してもらい、打ちっ放しで練習を開始した。
幸い、風光明媚なこの町は、あちこちにゴルフ場があり立派な打ちっ放しもあった。
何となく真っすぐ飛ばせると貴男が感じた頃に、沙織とコースに出る日が決まった。
紅葉と青空のコントラストが見事なまでに美しい日。
コースデビューの微かな緊張感が駐車場で待つ貴男を高揚させていた。
貴男の目の前を水色のハイブリット車が静かに通り過ぎる。
一時停止で切り返し、貴男の車の横につけて降りてきた沙織は、白のカットソー、ペールピンク✕ウォーターブルーのアーガイルチェックのニットベスト、オフホワイトのミニスカートだった。
「晴れで良かったですね」
「そうだね。本当に良い天気だ」
その白を基調としたコーディネイトは、秋晴れのスパイスとして貴男の目に映っていた。
クラブハウスで、貴男はゴルフ経験が少ないこと、ブランクがあることを沙織に伝えた。
第7話に続く
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「道化の涙に映る虹」第5話
前話
仕事上、作り笑顔は絶やさない貴男。だが、真の笑顔は失ったままだった。
その浅黒かったかつての笑顔
幼い娘はアンパンだと言って喜び、別れた妻は子熊のようだとからかった。
思い出の詰まった東京の家から身を剥がすようにして引き払い、前向きな気持ちなど微塵も無くこの町に来た。
家族との別離で身も心も壊れ、一時は死を決意して海岸線を歩いた。
美しい筈の風景も、どこか他人行儀で別世界だった。
歩いては立ち止まりを繰り返す。
崖から見下ろす先にあるのは黒くゴツゴツした岩。
死の直前に味合うであろう激しい痛み、覚悟を決めても足は竦む。
貴男と此の世繋ぎとめているのは死の恐怖と、別れた家族に罪悪感を残したくないという思いだった。
フィラメントが切れそうな裸電球同然の貴男、その童顔だった表情筋は急速に衰えを見せ、皮肉にも年相応の顔になっていた。
今の貴男にとって、たとえそれが不自然で間抜けな笑顔であっても、沙織に見せる精一杯の笑顔だった。
第6話に続く
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「鈍感」
錯覚ではなく
サッカーのではなく
作家、渡辺淳一
の作品「鈍感力」でもなく
さらに上を行く「鈍感道」をひた走る間抜けな自叙伝的エッセイです。
何が鈍感なのか?
私は生活において全てです。
人に言われなくても、気づいていながら修正できない。
筋金入りの鈍感です。
鈍感を転換して、「自分不器用なんで」と高倉健の様に言ってみたいですが、私のキャラでは噴飯ものです。
高倉健という名を出したので、有名人ネタのエピソードをご紹介いたします。
ちなみに、私は芸能関係者でもメディア関係者でもありません。
何故か、プライベートや仕事で有名人に会うことが子供の時から多かったのです。
自宅が、大映、日活等の長期のロケで使用された関係で、古くは長門裕之、南田洋子等、いろんな役者さんにたくさん出会いました。
当時の自宅は府中市の大きな蕎麦屋でした。布施明、ジュディオングもお客さんでした(出前のみ)
普段から有名人を身近に感じた私は、何を勘違いしたのか将来の夢は役者などと言っていたそうです。
既に鈍感の片鱗も(大笑)
立派な鈍感ではありますが、せめてミーハーではなかったと思います。
いや、思いたいです。
御付き無しの至近距離(2m以内)かつ、会話した有名人は数多くいます。
イメージと違って、一般人と変わらぬ反応に安堵することが多かったです。
自衛官の頃は基地際コンサートで浜田朱里(当時バリバリのアイドル)
狼の檻に羊を放り込むようでとても可哀そうでした。
デザイナーに転職してからは
高田賢三、イブサンローラン、ティエリーミュグレー、ロメオジリ(ライセンス)特に師匠、高田賢三さんは思い出深いです。
イタリアで稲葉賀恵
ブルー・ノート(blue note)東京のこけら落としでトニー・ベネット
アメリカでは超大物。
バーブラ・ストライサンド、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、ビリー・ジョエル、スティーヴィー・ワンダー、ディクシー・チックス、ジェームス・テイラー、フアネス、セリーヌ・ディオン、ダイアナ・クラール、エルヴィス・コステロ、k.d.ラング、ボノ、マイケル・ブーブレ、スティング、ジョン・レジェンド、ジョージ・マイケル、アレサ・フランクリン、マライア・キャリー、レディー・ガガと共演です。
と、ミーハーなので余計なことまでも語りたくなってしまいます。(失笑)
Japan Fashion Week in Tokyo(東京コレクション)で北野武、大森うたえもん(西新宿、都庁建設前の大型テントから新宿駅20分くらい話す)
その他、ファッション関連では、三宅一生、鷲尾いさ子(当時KENZOのモデル)
菅原文太(東京タワー横の坂道を向かいから一人で歩いてくる。話せるわけない)
田町駅で鳳蘭(会話無し、すれ違い。この辺になるとノリです。すみません)
ならば神田駅で、片桐はいり(車両出口の真正面、会話無し)
繋がりで浅草駅で南伸坊(全く会話無しのすれ違い)
舘ひろし(港区の自宅マンションのエレベーター、開いたら突然、舘ひろしはドッキリでしょう!)
ついでに石原プロモーションの撮影が近所に多かったので神田正輝(コンビニの立ち読み同士)
別の撮影で藤竜也。うちのマンションのクレーマージジイが撮影中の藤竜也にクレーム。(この爺さんは誰にでも文句を言う。勿論私も被害者)
田町駅でまたまた北野武(その男凶暴につきの撮影中だから話せるわけないですよね)
趣味のスカイダイビングでは本木雅弘(CM撮影でセスナ、キャラバン同乗)
引越した大田区上池台では、住んでいるマンションの一階の花屋で撮影。エレベータを降りていきなり原田知世。綺麗だったな。
近所のスナックで、ウクレレ漫談の牧伸二(1時間くらいマンツーマンで飲む。
イメージよりガタイが良い。声も低音で落ち着きもあり真逆)
通販の仕事で、テレビ朝日・深夜水族館「ミッドナイトマーメイド」の風見しんご、磯野貴理子(二人とも尋常ではない声のデカさ。お世話になりました。)
熱海では、板尾創路(とある商品の納品で自宅に)、桐谷健太(映画『火花』)
伊東では、春やすこ、高橋克実、桑田 真澄(元プロ野球選手、気さくで良い人)
と、ここまで書けば、やっぱりかなりミーハーなんですよね。
少なくともこの十倍は有名な方と会っていましたが思い出せません。
鈍感というよりボケ?
綺羅星の如く輝く人びと
でも、会った時はワー、キャーの感動は正直ありませんでした。
有名人の方すみません!
たとえ、オーラを放っていたとしても、あまりに色々方とお会いしたので、私の感性は鈍くなっていたのでしょうか
非日常が日常になったら、慣れは感性を鈍らせる。
人が非日常、刺激を求めるのはそういうことなのかな
高倉健とか、勝新太郎、三船敏郎さんにあったなら緊張したのかな?
ハリウッドで活躍する俳優や、スポーツ選手
に会ったらどうだろうと一人妄想して
みる今日この頃
イチローや大谷に会いたい!
追伸
世界的なミュージシャンの枠でとうとう追加!
SNSで大ファンだったエリック・クラプトン(本物)から友達申請あり。勿論、即承認!
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