「道化の涙に映る虹」第4話
前話
貴男は帰宅すると
「よろしくお願いします」と印刷された沙織の名刺を裏返し、記載されたアドレスに
「ありがとう(^o^)/」を送信した。
その日の返信は無く、三日後の夜に「どういたしまして」とだけ返信があった。
沙織の降格人事は、仕事上のミスや不祥事ではないことを奈緒美から聞いていた。前任者が、出産と子育てを理由に、休職ではなく退職を選び、古巣に戻った為であった。
沙織には子供は無かった。
一週間後、貴男は休日のランチに誘うメールを沙織に送信した。
「是非と言いたいところですが、仕事と離婚のことで、当分男性と二人きりで会う気持ちの余裕がありません。ゴメンなさい」
「そうだよね、全くデリカシーが無かった。僕の方こそ本当にすみません」
浅はかな自分を見透かされた恥ずかしさで顔が赤くなった。
しかし、どうしても沙織の気を引きたい貴男は二週間後に再びメールを送信した。
ともに離婚という二人の環境のシンクロと、不当な人事異動に対する怒りと同情ついて書き連ねた。
一時間後、沙織から
「アリガト♪(*^・^)」の返信があった。
気を良くした貴男は、このまま畳み掛けようとも思ったが、同じ轍を踏むリスクを避け暫らくメールをしなかった。
貴男は職場で沙織に会っても、近くに行って話しかけることは避け、自分でも可笑しいくらい口角を限界まで上げて会釈した。
第5話につづく
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