「道化の涙に映る虹」第33話
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寝ようとしても目が冴える。
夜中を三時過ぎた辺りからウトウトし、やっと眠りについた。
「パパ、今までありがとう。さようなら」
成人式の晴れ着を纏った美月は、貴男に背を向け歩き出した。
「美月、待ってくれ。本当に悪かった」
自分の叫び声で貴男は目を醒ました。
目尻は乾いた涙でザラザラしていた。
「大丈夫、学費は何とかする」
会社を潰した貴男は、父親としてのプライドと、自分の様に借金を背負わせたくないという思いから、ギリギリまで金策に走った。
多額の借金もあったことで、友人、知人から信用を得ることは儘ならず、目標額の半分に止まった。
結局、奨学金申請をさせなかったことが裏目に出て、大学進学を諦めさせる結果となってしまった。
今更、どの面下げて娘に会えようか
掛け布団を払い除け、冷蔵庫に一目散に向かい、冷凍庫の中から凍って真っ白になったズブロッカの瓶を取り出すと、反動で中身の液体は瓶底からキャップに向かってゆっくりと波を立てた。
キャップの氷を落とし、ふきん被せて反時計回りに捻った。
桜餅のような芳醇な香りが何年か振りに鼻孔に向かって立ち上った。
思わず、瓶を口に近づけた貴男だったが、
お客に、酒臭い息を吹きかけるわけにいかない。
サービス業の悲しい性。静かにキャップを閉めた。
戻りたくても昔の家庭に戻れないのだ。
貴男は眠れぬまま朝を迎えた。