「道化の涙に映る虹」第19話
前話
貴男は続けざまにシェーカーを振るう。
トップを外したシェーカーから、氷の入ったワイングラスにペールピンクの液体が注がれる。
「それは何ですか?」
「ラムベースのイスラデピノスという名のカクテルだよ。スペイン語でパイナップルの島というんだ。でも、パイナップルじゃなくてグレープフルーツ使うんだけどね」
「貴男さんがアレンジしたということ?」
「違うよ。元からグレープフルーツを使うんだよ」
「そうなんだ。何か理由があるんですか?」
「僕も良く知らないんだ。それより乾杯しよう!それじゃ、沙織さんの前途を祝して」
「カンパーイ」
チュィーーン
鉛度の高いグラスの澄んだ打音が響く。
「わーこれ美味しい。飲みやすい」
沙織は無邪気に喜ぶ。
「貴男さんのも美味しそう」
「飲んでみる?」
「いいですか?」
「いいよ。どうぞ」
「こっちも美味しい」
「どっちが好き?」
「どっちも、強いて言うならイスラデ…イスラ」
「イスラデピノス」
「そう。それです」
「じゃあ、これ飲んでいいよ」
「えっ、いいです。貴男さんのが無くなっちゃう」
「いや、僕はカクテルよりもウィスキーの方が良いよ。実はグレナデン・シロップが消化しきれないから無理矢理作ったんだ」
「そうなんだ」
「ところで沙織さん、今回の件はやっぱり責任の一端を感じるよ。本当にごめんね」
「ホントに貴男さんのせいじゃないから気にしないでください」
「ウーン…。そうだ、やっぱり何かつまむもの出すね。ミックスナッツで良い?」
「あ、ありがとうございます」
「ところで、前から聞きたかったことがあるんだけど」
「何ですか?」
「うん。聞き辛いことなんだけど単刀直入に聞くよ。沙織さんとこ離婚の理由は何だったの?」
「私ですか?」
「うん」
「旦那のギャンブルです」
「ギャンブル?」
「酒もタバコもやらないし、他に問題が無い人でした。物静かで優しかった」
「旦那さんは、ギャンブル止めようと思わなかったの?」
「止めようと努力はしていたようですけど結局ダメだった」
沙織は遠くを見る。
「そうか…」
「貴男さんは?」