「道化の涙に映る虹」第20話
前話
「うちの方は価値観のズレ。それが大きくなったことかな。そして引き金になったのは、経営していた会社の倒産。よくある話だよ」
「でもお子さんいたんですよね?やり直すとかは」
「もう大きいし、それに仕事に熱中するあまり、家庭を顧みなかったからダメだった」
「辛かったですね」
「うん。でも過ぎたことだよ」
「もう戻らないこと?」
「うん」
カクテルのレパートリーも出し尽くし、酔いと共に互いの生い立ちの話も深まった。
貴男の目は焦点がぼやけ始め、話は断片的に耳に入ってくるようになっていた。
沙織は、子供の頃に飼っていた子猫が、車にはねられて死んだという話を涙ながらに語っていた。
沙織を無性に愛おしくなった貴男だが、記憶が一時的に飛び、ふと我に返ると、テーブルの上に置いた沙織の手に、いつの間にか自分の手を重ねていた。
貴男は、そのままその手を強く握りしめたが沙織に拒まれることは無かった。
沙織の手を自分の方にゆっくり引き寄せ、ついてくる身体を抱きしめた。そして、目を閉じた沙織に唇を重ねた。
「シャワー借りても良いですか?」
「ちょっと待って」
貴男は風呂場に行き、バスローブとバスタオルを手に戻ってきた。
「はい、これ使って」
「ありがとう」
この日、二人は関係を結んだ。