「道化の涙に映る虹」第18話
前話
貴男は、小さな棚から、チェリー・ブランデー、ブランデー、オレンジ・キュラソーのミニチュアボトルを取り出しカウンターに並べる。
「可愛い」
香水の小瓶でも見るように、ミニチュアボトルを一本、一本持ち上げて見つめる沙織。
「そうでしょ」
乾燥してキャップが固くなったグレナデン・シロップとレモンを冷蔵庫から取り出す貴男。
「どこで手に入れたんですか」
視線を貴男に戻す沙織。
「通販」
「普通に売ってるんですね。試供品だと思いました」
貴男は黒のカッティングボードの上でレモンをカットし、一旦手を止め
「そうだよね。お酒詳しくないとあまり見ないもんね」
「うん。見ないです」
「普段あんまりカクテル飲まないし場所とるからね。殺風景なこの部屋のインテリア代わりに棚に合わせて買ったんだ。だから、美味しくてもあまりおかわりはできないよハハハ」
「おかわりはできないんですね。残念」
「その代わり、色んな種類のカクテルをご馳走するよ」
シェーカーのストレーナーを外し、チェリー・ブランデー、ブランデーをメジャーカップで量りながら30mlずつ入れ、オレンジ・キュラソー、グレナデン・シロップ、レモンの果汁を2滴ずつ入れ、氷を入れる。
シェーカーにストレーナーとトップをした。
見せ場を意識した貴男に程良い緊張感が走る。
沙織に正対していた身体を横に向け
カシャッ カシャッ カシャッ シャカシャカシャカシャカ
シェーカーを軽快に振るう。
シェーカーのトップを外し、カクテルグラスに注ぐ、グラスの脚を人差し指と中指で挟みテーブルの上で底を滑らせ沙織の目の前に押し出す。
「はい、どうぞ」
「美味しそう。これは何という名前ですか?」
「チェリー・ブロッサム。名前忘れないように、わかり易い方が良いと思って、この名前聞いたことあるでしょ?」
「聞いたことあります」
「桜の花をイメージした日本生まれのカクテル、響きが良いよね」
「そうですね。名前のとおり、キレイ」
「あっ、そうそう当店はキャッシュオンデリバリー制となっております。一万円いただきます」
「えー、ぼったくりBarじゃないですか」
少し甲高い声になった沙織。
「アハハハハ」
笑い合う二人。