「道化の涙に映る虹」第16話
前話
「さあ、そろそろ二次会に、と言いたいところだけど実は代行頼んじゃったんだよね」軽く舌を出す奈緒美。
「そうなんだ。ありがとう」
と返す沙織。
「もうそんな時間?」
貴男のパテックは21:41を指していた。
奈緒美は、貴男と沙織を順に指差し
「ちなみに、あなた達二人の代行は頼んでないからね。沙織は明日から有休消化でしょ、後はお好きに」
意味深な笑みを浮かべる。
「何で、私の送別会でしょ、一緒に頼んでくれてもいいじゃない」
沙織が言うと
「さあさあ、私たち邪魔者はとっとと消えましょう」
奈緒美は、まるでボクサーが入場する時の様に、有里子の両肩に手を乗せて退出を促す。
「違う違う、そんなんじゃないって」
沙織は酔った顔を更に赤らめ否定した。
「いいから、わかったから、じゃあねオヤスミー」
バイバイする奈緒美。
有里子は肩越しに振り返り
「また連絡するね。今日はゆっくり楽しんできてね」
腫れた目蓋で微笑んだ。
いつもなら、二人きりになるのは喜ばしいことだが、今夜は違った。
良い人たちだ。
出来るだけ長く四人で一緒に時間を過ごしたいと思う貴男だった。
二人を見送った貴男と沙織。
「どこかで飲み直そうか」
貴男はスマホで検索を始めた。
「はい。良い所あります?」
「もうお腹いっぱいだよね。近所に小洒落たBarがあるんだけど行ってみない?」