海辺のアップサイクリスト

価値観の見直しによって生活を好循環させること

「道化の涙に映る虹」第12話

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10万単位で金額が違っていた。明らかに単なるレジの打ち間違いではなかった。レジは古い機種で、仕入れ管理の社内LANと切り離され連動しておらず全てが手入力だった。

  

沙織は、事の次第を求められ、微かにカビの臭う日当たりの悪い社長室に呼ばれた。

  

役員を前にして、盗難や横領の可能性も問われた沙織は二日前の出来事を思い出していた。

 

「商品コードの設定は、私が明日やるからさ、さっちゃんはわざわざ出て来なくていいよ」

 

笑いじわにホクロ、気の良さが滲み出る顔を更に綻ばせパートの有里子は言った。

 

「でもさ社員の私がやらないと」

頭の上に組んだ両手を下し沙織が言った。

 

「良い人と逢うんでしょ?こっちはいいから行っておいで」

 

「でも…」

 

まるで母娘のやり取りだった。

 

「何かあったら電話するから」

 

「うん、わかった。ユリさん本当に遠慮無く電話してね大丈夫だから」

 

「はーい。楽しんできてね」

 

有里子は指で作るOKサインから左目を覗かせお道化てみせた。

 

61才になる有里子は沙織の近所に住んでいる。

 

12年前に夫と死別し、息子夫婦は東京で暮らしていた。

 

娘が欲しかったこともあり、子供の頃から沙織は可愛がられていた。

 

有里子は沙織の口利きで繁忙期限定のパートの職を得ていた。

 

沙織は、有里子とのやり取りは伏せ、自分の商品コード設定と入力ミスで起きたと全責任を認めた。

 

幸い、PCのデータ上での損失で、会社と客に実際の損失が出ていないことから、この案件は始末書だけの処分となった。

 

頬を紅潮させて社長室を出てきた沙織に

 

「どうだった?」

 

思わず貴男は声を掛けた。

 

「えっ、うーん…。後で話す」沙織は貴男の目の前を通り過ぎた。

 

第13話につづく

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