海辺のアップサイクリスト

価値観の見直しによって生活を好循環させること

「道化の涙に映る虹」第11話

 前話

 
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「じゃあ調整は後でね」

 

次の約束を取り付けた貴男は、グラスに残ったボルドーのメルロを一気に飲み干すと

 

「確か予定だと明日バス10台入っていたよね。朝早いからそろそろ帰ろうか?」

 

バスの話など無粋だと思ったが、戦場の様な忙しさが思い浮かんでいた。

 

「うん。そうね。そうしましょう」

 

膝上のナフキンを持ち上げ、軽く口元を押さえた沙織は笑顔を貴男に送り、貴男はその笑顔に頷いた後、窓ガラスに映っている沙織の笑顔を改めて確認した。

 

ガラスや鏡等を通して相手の姿を間接的に見ることは貴男の癖だった。

 

相手の本音を客観視できるような気がするからだった。

 

 


翌日、事は不意にやってきた。

 

 

21時30分、売店のレジ締めの時間だった。

 

貴男は、お客の案内から戻る途中、売店の前を通りかかると、眉間に皺を寄せながら長いレシートロールを持ち上げて凝視する沙織を見つけた。

 

「どうしたの?」

 

「えっ?あ、うん…。レジが合わない。どうしよう」

 

「僕に何か出来ない?」

 

「ありがとう。でもどうしようもないの、私がやるしか…」

 

観光シーズン等の繁忙期や団体客が多くなると、売店では、通常展開の商品の他に、近隣の海産物店の協力を得て、委託販売の形で販売品目を増やす。レジも2台増やし、パート2名を増員する。

 


大型バスの駐車スペースが無い小さな海産物店と、ワンストップサービスを目論む三代目ワンマン社長の利害が一致したことによるもので、一時的に大量の商品コードが発生する為、間違いが起こり易く混乱するのが常だった。

 

特に団体客のレジ対応はチエックアウト前後に集中し、短時間に大勢の対応をしなければならない為、レジの打ち間違え等のミスが起こり易かった。

 

経営陣に対し度々販売部から意見具申されたが、改善されることはなく、始末書や減給等のしわ寄せはレジ担当者の一身が負っていた。

 

第12話につづく


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