「道化の涙に映る虹」第9話
前話
沙織の車を先に帰した貴男は、中古のトールワゴンに沙織を乗せ、ラ・メルに向かった。
ラ・メルに着いた頃、貴男が事前に思い描いていた海に映えるオレンジ色の夕暮れは無残にも呆気なく閉じていた。
ここまでくれば、沙織の顔色を気にしていては先に進まないのは重々承知。百戦というより数々の敗戦で錬磨された貴男
「この夕暮れ、焦り過ぎだよね。せめて僕らが到着するまで待ってくれれば良いのに」
無意識のうちに口を衝いていた。
たとえ、ネガティブな現実があっても、できるだけポジティブな雰囲気を作るのみ。
それこそが女性が遺伝子情報に加えようとしているもの。
ゴルフが下手なのは既に沙織にインプットされている。
それがどうした、生きることに全く関係ない。
変な自信が身に付いている貴男は揺るがなかったが
「フフっ」
沙織が笑ったことで心底安心した。
「夕暮れが無くてもワインの美味しさは変らないよね。美味しい料理だってあるし」
「うん。はい。楽しみ」
ドアを開け下車した貴男は仰々しく助手席に回り込み、沙織を降ろした。
沙織は、いまだかつて見せたことがない笑顔を貴男に送った。
第10話につづく
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