「道化の涙に映る虹」第8話
前話
「沙織は幻滅しているに違いない」
何とかフルラウンドが終わった貴男。
想定外の出来事に翻弄されて内心穏やかではなかったが、そこは経験が浅い青年ではない。頭の中ではリカバリーを考えていた。
貴男は、会社が倒産しても最後まで手放さなかったパテックフィリップの腕時計をおもむろに見る。
「そうだ、今ならちょうど間に合う。沙織さんは見慣れているかもしれないが、この時間なら夕映えの綺麗な海が見れるよね。その景色をつまみにとびきりの美味いワイン飲みませんか?」
貴男は、予約していた海が一望できるフレンチレストランを思い浮かべながら臆面もなく沙織を誘った。
ラ・メルと言うありふれた名の、一見カジュアルだが地元の人間が来ない高級店だった。
沙織はバッグからスマホを取り出し、フリックした。
断り文句が来る予感。
「んー。でも車で来てるから」
スマホから貴男に目を移す沙織
「僕が代行手配するので」
いろいろ不利な状況、食事だけでも等という言葉を飲み込んで畳み掛けることはしなかった。
「わかりました。行きましょう」
沙織の予想外の返事に拍子抜けした貴男だった。
第9話につづく
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