海辺のアップサイクリスト

価値観の見直しによって生活を好循環させること

「道化の涙に映る虹」第7話

 前話

 
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貴男は、左手に嵌めたグローブの裾を手首側に強く引っ張り、グー、パーを繰り返しながら手にフィットさせた。

 

カートに積んであるゴルフバッグからドライバーを引き抜き、ティグラウンドに立って素振りを一度、そして、グリーン上のピンフラッグと足元のゴルフボールを交互に見定めた。

 

カートから降りてきた沙織は温かい眼差しを貴男に送った。

 

良いところを見せようと飛距離を意識し力任せのフルスイング。

 

ゴルフボールは左に大きく流れ
「フォアー!」
聞いたことが無い沙織の大声に一瞬ビクッとする貴男。

 

その後のラウンドでも、池に、バンカーにとトラブルショットの連発でグダグダになり、パッティングなど殆ど練習していなかったことで、ダブルボギー、トリプルボギーは当り前の状態となっていた。

 

一方、飛距離こそ出ないものの、前職から営業畑一筋で接待ゴルフ経験豊富な沙織は常にフェアウェイをキープし手堅く刻んでいた。

 

こうなると最早楽しむどころではない。

 

貴男は沙織の「大丈夫、落ち着いて」「頑張って」の声にプレッシャーを感じ、その声援が少なくなったと感じた時から沙織の顔色を窺うようになっていた。

 

更に、貴男の背後に後発グループのプレッシャーも迫り、優雅にラウンドを回るイメージだったゴルフが一人間抜けに走り回ることになっていた。

 

失敗する度、コミカルなオーバーアクションで戯けていた貴男も、次第に余裕が無くなり真顔になっていた。

 

沙織のスコア89貴男は138。散々だった。

 

プライドのメッキもぽろぽろと剥がれ落ちていた。

 

自分の土俵に上げるべきだったと後悔した。

 

「やっぱり、やっていないとダメだね」

 

貴男は、経験が浅い体を装い、己への慰めを兼ねた苦し紛れの言い訳を沙織に放った。

 第8話につづく

 

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