「道化の涙に映る虹」第6話
前話
疲れた体を引き摺り家に帰ると、それに呼応するかのように、スマホに青い光が点滅し着信メールを知らせた。
沙織はメールが苦手、ましてやLINEなど誰ともやらないと奈緒美は言っていた。
LINEの着信を知らせる緑の点滅ではなかったので、貴男はほのかな期待を抱いていた。
スマホのディスプレイをフリックしダブルタップ、そして着信リスト最上部の沙織の名前をタップした。
「こんばんは♪ 元気ですか?今度お休みが同じ日にゴルフ行きませんか?」
貴男の眼はメールを三回なぞっていた。
だが、ゴルフ経験が無い貴男は素直に喜べなかった。
無様な姿を晒したくない。代案を出すべきか…。
しかし、先日の食事会でも、共通の趣味の話題は無かった。仮に自分の代案に合わせてもらっても、それはそれで面倒だと思い、沙織に合わせた方が無難だとも思った。
「是非行きましょう!」
経験が無いとはとても言い出せなかった。
日程調整には時間が掛かるし付け焼刃でも何とかなるだろう。元々運動音痴ではない貴男はたかを括り、友人に道具一式を貸してもらい、打ちっ放しで練習を開始した。
幸い、風光明媚なこの町は、あちこちにゴルフ場があり立派な打ちっ放しもあった。
何となく真っすぐ飛ばせると貴男が感じた頃に、沙織とコースに出る日が決まった。
紅葉と青空のコントラストが見事なまでに美しい日。
コースデビューの微かな緊張感が駐車場で待つ貴男を高揚させていた。
貴男の目の前を水色のハイブリット車が静かに通り過ぎる。
一時停止で切り返し、貴男の車の横につけて降りてきた沙織は、白のカットソー、ペールピンク✕ウォーターブルーのアーガイルチェックのニットベスト、オフホワイトのミニスカートだった。
「晴れで良かったですね」
「そうだね。本当に良い天気だ」
その白を基調としたコーディネイトは、秋晴れのスパイスとして貴男の目に映っていた。
クラブハウスで、貴男はゴルフ経験が少ないこと、ブランクがあることを沙織に伝えた。
第7話に続く
↓ブログ村ランキングに参加しています。