海辺のアップサイクリスト

価値観の見直しによって生活を好循環させること

「道化の涙に映る虹」第5話

 前話 

upcyclist.hatenablog.com

 

f:id:upcyclist:20161220110850j:plain

仕事上、作り笑顔は絶やさない貴男。だが、真の笑顔は失ったままだった。

 

その浅黒かったかつての笑顔

幼い娘はアンパンだと言って喜び、別れた妻は子熊のようだとからかった。

 

思い出の詰まった東京の家から身を剥がすようにして引き払い、前向きな気持ちなど微塵も無くこの町に来た。

 

家族との別離で身も心も壊れ、一時は死を決意して海岸線を歩いた。

 

美しい筈の風景も、どこか他人行儀で別世界だった。

 

歩いては立ち止まりを繰り返す。

崖から見下ろす先にあるのは黒くゴツゴツした岩。

死の直前に味合うであろう激しい痛み、覚悟を決めても足は竦む。

 

貴男と此の世繋ぎとめているのは死の恐怖と、別れた家族に罪悪感を残したくないという思いだった。

 

フィラメントが切れそうな裸電球同然の貴男、その童顔だった表情筋は急速に衰えを見せ、皮肉にも年相応の顔になっていた。

 

今の貴男にとって、たとえそれが不自然で間抜けな笑顔であっても、沙織に見せる精一杯の笑顔だった。

 

第6話に続く

 

upcyclist.hatenablog.com

 

 ↓ブログ村ランキングに参加しています。

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村