海辺のアップサイクリスト

価値観の見直しによって生活を好循環させること

「道化の涙に映る虹」第2話

 前話

 

upcyclist.hatenablog.com

 

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貴男は、遅い夕食を終えると、安物の国産ウイスキーを煽りながら、シンクに溜まった食器を洗い、ネットで拾ったクラブJAZZリミックスを聞き流すのが日課となっていた。そして、杯を重ねながらSNSに移行するのが目下の趣味となっていた。

 

3年に及ぶ一人暮らしで、ひと通り家事をこなせるようになっており、不便を感じることはなく気ままに生きていた。
苦しみもがいた離婚で、図らずも自由が転がり込み、もう結婚はこりごりだと思っていた。しかし、現金なもので、生活が落ち着いてくると、心を通わせる存在が欲しくなるのもまた事実だった。

 

貴男が入社して4か月くらい経ったある時、人事異動を知らせる社内報で異なる名字の沙織を見つけ離婚を知った。

 

本社営業部主任から販売部平社員への降格人事だった。

 

二人は部署は違うため、声をかけようにも休憩時間や帰宅時間も合わず、年中無休の会社では飲み会も無かった。貴男は売店の前を通る度、意識的に沙織に視線を合わせ切っ掛けを窺うようになっていた。

 

あまりの不自然さに、警戒されることを恐れた貴男は、状況を打開するため、二人の共通の友人であり、同じ部署に勤務する奈緒美に頼み、表向きは慰労会ということで食事会をセッティングしてもらうことにした。奈緒美は既婚者だが子供はいなかったので都合をつけて協力してくれた。

 

シフト勤務のため、三人の予定を調整することがなかなか難しく、3週間後にようやく食事会が開かれた。

 

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イタリア料理がベースの地魚ダイニング、離婚話には触れず、奈緒美のお蔭で他愛もない世間話で場は和んだ。

 

程良くワインも進んだところでお開きとなり会計を済ませ表に出ると

 

「沙織、悪いんだけど貴男さんと先に帰ってくれない。ちょっと用事があって旦那とこれから合流するから」
気を利かせた奈緒美は、顔の横でスマホを小刻みに振りながら言った。

 

「そうなの?  わかった。じゃあ、お先」
沙織は、奈緒美から貴男に視線を移し軽く頷くと駅に向かって歩きだした。

 

 

 第3話に続く

 
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